(1) タテジマの22番
僕も、すっかりと中年になった。
若い人たち(この言い方、やっぱり中年)は知らないかも。
星野ジャパンの打撃コーチ、田淵幸一さんの現役時代。
阪神タイガース4番の立ち姿は、役者絵のようだった・・・・
子供の頃、僕は体が弱かった。 小学校の体育は見学ばかりだった。 友達と野球をしたことも無かったし、 ホームランの意味さえ知らなかった。 この頃のプロ野球は、けっこうな娯楽だった。 そして、圧倒的に巨人ファンだらけ。 王貞治さんは国民的ヒーローだったし、 長嶋茂雄さんは親父達の「夢」だった。 小僧どもにとり、新品のグローブは宝物で、 近所の空き地は、毎日のように「野球広場」だった。 だけど僕は、病弱でポツンとしていた。 遊び友達がいない、「変わり者」だった。 そんなある日、祖父の家でのこと。 祖父がテレビのチャンネルを変えた。 阪神−巨人の中継だ。 ルールも知らない僕にとり、退屈な時間が始まった・・・・・・ ・・・・・しばらくすると・・・・・ ・・・・・・田淵幸一さんの打順になった。 突然、目を奪われた! 打席の田淵さんが映った。 スウっとバットを構えた。 一瞬、時間が、動きが止まる。 その立ち姿に、なぜか魅了されてしまった。 30年以上も前のことだ。 かなり美化された思い出かも知れない。
でも、僕にとり、一枚の役者絵のようだった・・・・・ 田淵さんの立ち姿は、本当にカッコ良かった。 この時、僕が普通の野球小僧だったら・・・・・・ 皆と同じく、当たり前のように巨人ファンで、 マイヒーローは王貞治や長島茂雄だっただろう。 ホームランや好プレーにワクワクしただろう。 阪神の田淵幸一は眼中に無かっただろうし、 この日の打席の姿も見過ごしていたかも知れない。 だって・・・・・・ その姿は「バットを構えた」だけのこと、 ピッチャーとの対決に、決着さえついていない。 野球のダイナミックな面白さはカケラも無い。 でも、その日の僕にはどうでもよかった。 田淵さんを初めて見た! カッコ良かった! ひとめ惚れだった! ただそれが、真実だ。 あるんだな、何かに、誰かに「ひとめ惚れ」する瞬間。 価値観が大逆転する日。 野球のルールさえ知らなかった僕が、 田淵さんと、阪神タイガースのファンになった日。 いずれ詳しく話すこともあるけど・・・・・ 僕は長嶋茂雄が神様のように思われていた町で育った。 そんな所で、阪神ファン、田淵フリークを公言した。 まわり中、敵だらけ! おかげで、ますます「変わり者」とされてしまった。 青白い子供が、骨太のアンチ巨人にまでなってしまった。 僕も、もう中年。 年月は経つんだよね、本当に。 だけど、田淵さんの立ち姿が今でも最高だと思う。 これって思い込み? でもいいじゃない。
生まれ変わったら、今度こそ「野球小僧」だ。 笑われるかな? 時々、でも本当にそう思う。 ありがとう、田淵幸一さん。 |