台所から、妻の謝る声が聞こえる。
「ごめんなさい・・・・・・」
ただし、僕にではない。 人として、人ではないモノに謝っている。
妻は、腐らせてしまった食材に謝っていた。 二人とも体調が悪く、食べ切れなかったのだ。 ただ、これはけして奇妙なことではない。 粗末にされた食べ物への謝罪なのだから。
僕は、家ではめったに怒らない。 特に怒る理由もない。 怒った後、もっと怖いことがあるかも知れないし。 だが結婚前に、妻を激しく叱ったことがある。
二人で居酒屋に行ったときのことだった。 目に映り、色々と食べてみたかったのだろう。 気が付けば、妻はかなりの品数を注文していた。 しかし、その半分以上を残してしまった。
僕だって不注意だったけど、もう遅い。 夏場だったから、残り物の持ち帰りは断られた。 食中毒の恐れがあるからだ。
店を出て、僕は二つのことで妻を叱った。
誠意をもって調理してくれたお店に対する失礼。 これは、お金を払えばいいという問題ではない。 そしてもう一つは、食べ物を粗末にしたこと。 これは絶対に無視できなかった。
命を与えられ、生まれてきたことは奇跡だ。 だが生き続けることは、一生、食べ続けること。 人ではない、他の命を頂き続けるということだ。
お米、魚、肉、野菜・・・・・・・・ 全てに命があり、それを頂いているのだ。 それを粗末にすることは、大変な罪ではないか。
ペットの命を思い、家族の命を思うのに、 人のために犠牲となった命をなぜ粗末にする? おかしな話ではないか。
要は感謝の気持ちなのだ。 人として生かされていることへの感謝。 それがなければ、家族になる意味も半減する。 仲がいい振りをするだけのママゴト夫婦になる。 そうはなりたくはなかったから叱った。
でも、うっかりしたね。 体調が落ちたとは言え、食べ物を腐らせるなんて。 「ごめんなさい」がないよう気を付けよう。
反省。
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